本資料は6月22日にドイツ・バイエル社が発表したプレスリリースを日本語に翻訳編集したもので、報道関係者各位へ参考資料として提供するものです。本資料の正式言語は英語であり、その内容およびその解釈については英語を優先します。原文はwww.press.bayer.comをご参照ください。
バイエル、1型糖尿病を合併する成人慢性腎臓病患者を対象としたフィネレノンの第Ⅲ相臨床試験を開始
- 第Ⅲ相臨床試験FINE-ONEは1型糖尿病を合併する成人慢性腎臓病(CKD)患者を対象にCKDの進行抑制に対するフィネレノンの有効性・安全性をプラセボと比較検討
- CKDは1型糖尿病患者の最大40%に発症1
- 1型糖尿病を合併するCKD患者の4分の1が末期腎不全に移行2
- 1型糖尿病を合併する成人CKD患者には限られた治療選択肢しかなく、新しい治療薬は約30年間承認されていない
ドイツ・ベルリン、2023年6月22日 ― ドイツ・バイエル社は、1型糖尿病を合併する成人CKD患者を対象に、フィネレノンの有効性と安全性をプラセボと比較検討する国際共同、多施設、無作為化、プラセボ対照、二重盲検並行群間比較第Ⅲ相臨床試験FINE-ONEの開始について本日発表しました。本試験の主要目的は、治験薬投与6カ月にわたる尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の低下に関し、プラセボに対するフィネレノンの優越性を証明することです。
フィネレノンは、2型糖尿病を合併するCKDの治療薬として世界70カ国以上で承認され、ケレンディア®(一部の国ではFirialtaTM)の名称で販売されています。主に慢性代謝疾患である2型糖尿病とは異なり、1型糖尿病では遺伝や環境要因により、膵臓のインスリン分泌細胞が破壊されていると考えられています。1型糖尿病は通常、小児期または青年期に発症しますが、成人になってから発症することもあります。CKDは1型糖尿病患者の最大40%に発症します。1型糖尿病によるCKDの有病率は、1990年から2007年にかけて58.2%増加し、2007年から2017年にかけては21.7%増加しました1。
ワシントン大学内分泌・代謝・脂質研究部門内科学教授で、本試験運営委員会共同委員長を務めるジャネット・マッギル氏は次のように述べています。「糖尿病と高血圧の管理は別として、1型糖尿病を合併するCKD患者さんの腎疾患の進行を遅らせる治療選択肢は現在、非常に限られています。2型糖尿病に対するリスク低減が進んでいるにもかかわらず、1型糖尿病を合併するCKDは依然として十分な研究が行われておらず、末期腎不全や心血管イベントのリスク低減に対する大きなアンメットニーズが残されています。腎機能の低下速度を遅らせるためには新たな戦略が必要であり、この新しい重要な研究は、1型糖尿病を合併するCKD患者さん、そして臨床現場にとっても歓迎すべきニュースです」
1型糖尿病患者におけるCKDの臨床経過は、腎障害の最初の兆候である尿中アルブミン排泄率の上昇によって特徴付けられ、後期には顕性アルブミン尿や推算糸球体濾過量(eGFR)の低下へと移行する可能性があります。1型糖尿病患者の高血糖、高血圧、アルブミン尿を管理するためにガイドラインで推奨されている治療法があるにもかかわらず、残余リスクは依然として高く最大4分の1が末期腎不全に移行し、CKDは1型糖尿病における死亡の主要原因となっています2。
世界有数の1型糖尿病研究・支援団体JDRFのチーフ・サイエンティフィック・オフィサーであるサンジョイ・デュッタ氏は次のように述べています。「長期にわたる腎合併症が1型糖尿病患者さんを苦しめているにもかかわらず、1型糖尿病を合併するCKDの患者さんにおける腎疾患進行の高い残余リスクに対処するための研究は極めて不十分です。JDRFは、規制当局へ検討のために提出する目的で、バイエルが1型糖尿病を合併するCKD患者さんの腎アウトカムを改善するフィネレノンの効果を評価する臨床試験を実施していることに感動しています。JDRFは、この重要な臨床試験が成功するよう、バイエルとの協力に尽力してまいります」
ドイツ・バイエル社医療用医薬品部門の経営委員会メンバーで、研究開発責任者であるクリスチャン・ロンメルは次のように述べています。「30年近くもの間、1型糖尿病を合併する成人CKD患者さんの高い腎疾患進行リスクに対処するための革新的な治療薬は承認されていません。われわれは、1型糖尿病を合併する成人CKD患者さんを支援できるかもしれないという可能性に胸を膨らませています。1型糖尿病と2型糖尿病におけるCKDの根本的な原因が共通していること、アルブミン尿がCKDの進行と強く関連していること、そして2型糖尿病を合併するCKDの患者さんに対するフィネレノンの有効性に関する確固たるエビデンスがあることから、フィネレノンが成人1型糖尿病患者さんにおいてもCKDの進行を抑制することが期待されます」
本試験では、1型糖尿病を合併するCKDの成人被験者約220人を対象に、標準治療に上乗せしたフィネレノンをプラセボと比較検討する計画です。被験者は、標準治療(アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬[ARB]などのレニンアンジオテンシン系[RAS]阻害薬)に、フィネレノンまたはプラセボのいずれかを上乗せ投与する群に、1対1の割合で無作為割り付けされます。FINE-ONE試験において、CKDの進行抑制に対するフィネレノンの有効性はアルブミン尿の減少に基づき評価され、主要評価項目は、プラセボと比較したときの治験薬投与6カ月にわたるUACRのベースライン時点からの変化(ベースライン時点に対する比率)です。UACRはCKDの進行抑制を示すマーカーとして使用される予定です。2型糖尿病を合併するCKD患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験FIDELIO-DKDおよびFIGARO-DKDに関し、事前規定された統合解析FIDELITYにおいて、フィネレノンはCKDの進行ならびに致死的・非致死的心血管イベントのリスクを低下させるとともに、プラセボと比べUACRを一貫して持続的に30%以上低下させました。副次評価項目はフィネレノンの安全性評価で、治験薬投与下で発現した有害事象、重篤な有害事象および高カリウム血症(特に注目すべき有害事象)を発現した患者数が含まれます。
ミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰活性化は、代謝、血行動態、炎症や線維化の要因によって引き起こされる可能性のあるCKDの進行や心血管障害に寄与します。フィネレノンは、MRに選択的に結合し、MRの過剰活性化による悪影響を抑制することから、新たな治療選択肢を提供します。
【ケレンディア®/FirialtaTM(フィネレノン)について】
ケレンディア®およびFirialtaTMは、フィネレノンの世界的に保護された商標です。フィネレノンは非ステロイド型選択的MR拮抗薬で、MRの過剰活性化による悪影響を抑制することが示されています。MRの過剰活性化は、代謝、血行動態、炎症や線維化の要因によって引き起こされる可能性のあるCKDの進行や心血管障害に寄与します。
2型糖尿病を合併するCKDにおいて、ケレンディア®は第Ⅲ相臨床試験FIDELIO-DKDの結果に基づき、米国食品医薬品局(FDA)、欧州委員会(EC)、中国国家薬品監督管理局(NMPA)よりそれぞれ販売が認可されました。バイエルは2022年夏に、心血管アウトカムを検討した第Ⅲ相臨床試験FIGARO-DKDの知見を盛り込んだケレンディア®の添付文書改訂について、米国FDAより承認を取得しました。第Ⅲ相臨床試験FIGARO-DKDの知見に基づき、ケレンディア®はEC、中国NMPAより適応拡大が承認され、2型糖尿病を合併する早期のCKDが追加されました。ケレンディア®は、日本をはじめ世界各国でも承認されています。
フィネレノンの第Ⅲ相臨床試験プログラムFINEOVATEは現在、FIDELIO-DKD、FIGARO-DKD、FINEARTS-HF、FIND-CKD、FIONA、FINE-ONEという6つの第Ⅲ相臨床試験と、第Ⅱ相臨床試験CONFIDENCEで構成されています。
2型糖尿病を合併するCKDを対象としたフィネレノンの第Ⅲ相臨床試験FIDELIO-DKD、FIGARO-DKD(いずれも終了し結果発表済み)は、世界中の計13,000人以上の2型糖尿病を合併するCKD患者を無作為に割り付け、腎臓および心血管系の両アウトカムに関し、標準治療に上乗せしたときのプラセボに対するフィネレノンの効果が検討されました。
【1型糖尿病を合併するCKDについて】
1型糖尿病は、膵β細胞の破壊を特徴とする慢性自己免疫疾患で、インスリン欠乏症を引き起こし、生涯にわたるインスリン治療を必要とします。米国全人口の2018年推計によると、20歳以上の成人140万人(糖尿病と診断された米国成人の5.2%)が1型糖尿病であり、インスリンを使用していると報告されています3。
CKDはよく見られる疾患ですが、死に至る危険があることは広く認知されていません。CKDの進行は静かで予測不能であり、進行するまで多くの症状は現れません。CKDは糖尿病から生じる最も頻度の高い合併症の1つであり、心血管疾患の独立したリスク因子でもあります。
CKDは1型糖尿病患者の最大40%に発症し、そのうち25%が末期腎不全に移行します。世界の疾病負担研究(Global Burden of Disease study)の系統的分析では、1型糖尿病によるCKDの有病率は1990年から2007年にかけて58.2%増加し、2007年から2017年にかけては21.7%増加したと報告されています。2017年の1型糖尿病によるCKDの世界的な有病率は、10万人当たり32.5人と推定されています1。
1型糖尿病患者におけるCKDの臨床経過は、腎障害の最初の兆候である尿中アルブミン排泄率の上昇によって特徴付けられ、後期には顕性アルブミン尿やeGFRの低下へと移行する可能性があります。1型糖尿病の治療は、高血糖を管理するためのインスリン治療です。1型糖尿病患者では、HbA1c値7%以下を目標とした血糖への介入により、CKDの発症と進行を遅らせることができます。ガイドラインで推奨されているACE阻害薬やARBによる治療にもかかわらず、1型糖尿病を合併するCKD患者の残余リスクは依然として高く、最大で4分の1が末期腎不全に移行し、CKDは1型糖尿病における死亡の主要原因となっています。
【JDRFについて】
JDRFは1型糖尿病の研究とアドボカシー活動を行う世界的な組織で、1型糖尿病とその合併症に苦しむ人々の生活を改善するための研究を推進することに尽力しています。JDRFは、1型糖尿病を合併するCKDに対してフィネレノンの開発を進めるバイエルの取り組みを支援しています。
References:
1. GBD Collaborators. Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 354 diseases and injuries for 195 countries and territories, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017. Lancet. 2018 Nov 10;392(10159):1789-858.
2. Bjornstad P, Cherney D, Maahs DM. Early diabetic nephropathy in type 1 diabetes: new insights. Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2014 Aug;21(4):279-86.
3. Centres for Disease Control and Prevention. National Diabetes Statistics Report 2020. Available at: https://www.cdc.gov/diabetes/data/statistics-report/index.html [Last accessed: May 2023]
循環器疾患および腎疾患におけるバイエルのコミットメントについて
バイエルは、循環器疾患領域における革新的リーダーとして、革新的治療のポートフォリオを充実させることで、「Science for a better life」をお届けできるよう長年にわたり取り組んでいます。心臓と腎臓は健康や疾患において密接に関わっており、バイエルはアンメット・メディカル・ニーズが高い循環器疾患と腎疾患に対する新しい治療アプローチについて、幅広い領域で取り組んでいます。バイエルの循環器フランチャイズには多くの製品があり、前臨床および臨床開発のさまざまな段階にあるその他いくつかの化合物があります。これらの製品・化合物は、循環器疾患の治療法に影響を与える可能性のある標的やシグナル伝達経路を優先的に開発するバイエルのアプローチを反映しています。
バイエルについて
バイエルは、ヘルスケアと食糧関連のライフサイエンス領域を中核事業とするグローバル企業です。その製品とサービスを通じて、世界人口の増加と高齢化によって生じる重要課題克服への取り組みをサポートすることで、人々の生活と地球の繁栄に貢献しています。バイエルは、持続可能な発展を推進し、事業を通じて良い影響を創出することに尽力しています。同時に、収益力を高め、技術革新と成長を通して企業価値を創造することも目指しています。バイエルブランドは、世界各国で信用と信頼性および品質の証となっています。グループ全体の売上高は507億ユーロ、従業員数は約101,000名(2022年)。特別項目計上前の研究開発費は62億ユーロです。詳細はwww.bayer.comをご参照ください。
バイエルのビジョンについて
世界中のバイエル社員は、「Health for all, Hunger for none(すべての人に健康を、飢餓をゼロに)」というビジョンの実現に向け、革新的な製品とサービスを通じて、医療と食糧へのアクセス向上に貢献しています。私たちは、飢餓をなくし、すべての人々が健康的な生活を送れるよう疾病の予防、緩和、治療を支えると同時に、持続可能な農業と生態系の保護を目指しています。詳細はwww.bayer.jpをご参照ください。
バイエル薬品株式会社
2023年7月3日、大阪
将来予想に関する記述(Forward-Looking Statements)
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