2020年12月にバイエル薬品に入社し、現在Co.Labジャパン サイエンティフィックファインディングマネージャーとして働く団一幸さん。これまで携わってきたライフサイエンス分野における研究開発やマーケティングなどの経験を活かし、バイエルがグローバルで展開するインキュベーションラボであるバイエルCo.Lab Kobeなどの活動を通じて、大学発の研究や先駆的なスタートアップ企業を支援しています。団さんがリードするプロジェクトにかける想いについて聞きました。
サイエンティフィックファインディングマネージャー
団 一幸さん
―日本の創薬イノベーションの実績や課題、近年の動向について聞かせてください。
日本の研究開発と創薬イノベーション能力について、再生医療分野など世界トップクラスであるといわれています。研究開発における強力な実績を持つ日本は、創薬イノベーションにおける世界的リーダーであり、創薬イノベーションのホットスポットです。これまでにも日本の基礎研究より数多くのブロックバスターが誕生し、人々の病気の治癒に貢献してきました。
一方で、米国のようなベンチャーエコシステムの素地が十分に整っているとは言えず、研究成果を創薬に結びつけるべき有望なバイオベンチャーの数は限定的でした。いま、国・大学・事業会社が一丸となった産官学の協働による研究開発体制の構築や、ベンチャーキャピタルによるリスクマネーの供給、大学における産学連携体制の整備、自治体によるベンチャー支援など、状況は大きく変わりつつあります。
―バイエルの「Co.Lab」はどのような取り組みをしているのでしょうか。
製薬企業にも、研究者や起業家へのサポートが期待されるなか、バイエルは、グローバルでスタートアップ企業やアカデミア研究者を支援するバイエルCo.Labを世界の4拠点で設立し、創薬イノベーションのエコシステム醸成に貢献しています。バイエルCo.Labの日本の拠点である「バイエルCo.Lab Kobe」は先端医療技術のクラスターである神戸医療産業都市に位置し、オープンイノベーションのためのラボとオフィスを有し、利用企業の皆様にさまざまなサポートを提供しています。具体的には、創薬イノベーションや社外とのコラボレーションを促進するためのメンタリングプログラムやグローバルなサポートプログラムを提供し、アカデミアやスタートアップ企業を支援しています。
メンタリングプログラムはどのように実施され、その成果としてはどのような手応えがあったのでしょうか?
2024年より本格稼働しているスタートアップ企業やアカデミア研究者に対するメンタリングプログラムでは、日本の創薬イノベーションの活性化に貢献したいという想いを持った社員の方々が自ら手を挙げて参画しています。メンタリングプログラムの開発フェーズから実践フェーズへとスピーディーに移行することができた背景には、さまざまな専門知識や経験を持ったメンバーに集まっていただくことができたこと、プロジェクトメンバーの創薬イノベーションに貢献したいという熱い想いがあったからではないかと思っています。プロジェクトチーム内でのディスカッションをもとに、提供できるトピックとして6つの領域(創薬研究、市場性、データ創出、、事業化戦略、知財戦略、薬事対応)を決定し、実際にスタートアップ企業とのメンタリングセッションの機会を持ち、その実効性を確認しています。メンタリングプログラムに参加いただいたスタートアップ企業の皆様からは「製薬企業の率直な意見や考え方を聞くことができてとてもよかった」、「さまざまな視点でディスカッションでき、新たな気づきがあった」などの感想をお寄せいただくことができ、このような取り組みの必要性について強く感じています。
―Co.Labの活動、メンタリングプログラムの提供を通して、日本の創薬イノベーションにどのように貢献していきたいと思っていますか?
バイエルCo.Labの活動から得られた知見を活かして日本のスタートアップ企業やアカデミア研究者に対する本格的なメンタリングプログラムの提供を通じ、参画メンバーとともにPartner of Choice(選ばれる存在)になるというアウトカムの創出に注力して行きたいと思います。
「The most innovative square mile on the planet(地球上で最も革新的な一画)」と言われる米国ボストンのケンドールスクエアを訪れた際、ある人と日本の創薬エコシステムの現状について話をしていると「それはボストンの20年前の状況だね」と言われてショックを受けました。一方で、2024年7月に政府主導で開催された「創薬エコシステムサミット」や国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が民間ベンチャーキャピタルとタッグを組む「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」の拡大など、遅ればせながらも日本の創薬エコシステムを取り巻く環境は確実に変化しています。
社内・社外の様々なステークホルダーの皆さんと協力し、微力ながらも日本の創薬イノベーションのエコシステム醸成に貢献しつつ、日本のメンタリングプログラムチームのcapabilityを活かして、バイエルCo.Lab Kobeの利用企業の誘致や日本のスタートアップ企業との共同開発や新しいパイプラインの創出など、具体的な成果に繋げていきたいと思っています。
バイエルのミッション“Health for all, Hunger for none(すべての人に健康を、飢餓をゼロに)”に基づき、バイエルは偉大なサイエンスの力で社会に意義のあるインパクトをもたらすことを目指しています。スタートアップやアカデミアとのコラボレーションは、サイエンスイノベーションを促進するというバイエルの長期的なコミットメントに不可欠です。バイエルはヘルスケアエコシステムの醸成する社会貢献活動を推進しています。
バイエルCo.Labについて
バイエルはサイエンスイノベーションを促進し、ヘルスケアを進展させるコミットメントの一環として、神戸(日本)、上海(中国)、ベルリン(ドイツ)、ケンブリッジ(米国)にインキュベーションラボであるバイエルCo.Labを戦略的に設置しています。これらの拠点は、地域のステークホルダーやイノベーターとの重要なつながりを提供し、それぞれの地域のローカルエコシステムを積極的に形成しています。
*取材した社員の所属・役職の表記は取材当時のものです。