役立つ知識

遺伝子編集とは

役立つ知識 - 遺伝子編集とは

医療の最先端領域である細胞・遺伝子治療は、体の基本設計図に変更を加えたり、損傷した組織を置換し、体の機能を回復させたりすることにより病気をその根本原因から治療しようとするものです。そのような試みのなかで注目が集まっている画期的な領域の1つが遺伝子編集です。これは、例えば、特定の病気を引き起こす遺伝子を修正することにより、症状を消失させたり、病気そのものの発生を予防したりする技術です。

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デリケートなDNA編集ツール

遺伝子編集にはさまざまなツールや技術が用いられますが、病気の症状ではなく、病気の根本原因を治すという最終目標は同じです。体の外(ex vivo)での遺伝子改変では、患者さんまたはドナーから採取した細胞を改変し、遺伝子変異を修正したり、新しい機能を付与したりした後、患者さんの体内に移植します1。体の中(in vivo)での遺伝子編集では、体内で存在している細胞の中の遺伝子を改変します1。これは急速に進歩しつつある分野で、さまざまな技術が用いられますが、なかでも最も広く用いられているのは、「分子のはさみ」のようなものを用い、特定の箇所のDNA配列を切断した後、その欠陥部分を修復したり、置換したり、余剰部分を削除したりする方法です。

遺伝子編集:生物医学の「スイス・アーミーナイフ(万能ナイフ)」

私たちのDNAは世界最大の暗号表に例えることができます。A(アデニン)、C(シトシン)、G(グアニン)、T(チミン)の4つの文字(塩基)だけで構成されていますが、これらが正しく並ぶことによりタンパク質の設計図となります2。ヒトのDNA二重らせん構造は、約30億もの特定の塩基配列で構成されています。たった1つの誤りが生じただけで、4,000種以上の希少な単一遺伝子疾患の1つが引き起こされることもあり、時には生命を脅かす病気であることもあります3

 

CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)は、効率性、汎用性に優れた最先端の遺伝子編集ツールです。細胞内の特定のDNA配列を見つけ、結合し、特定の箇所でDNAを正確に切断することにより、細胞内に望ましいDNA配列の変化をもたらすことができる技術です。長い遺伝子配列の中の1文字を編集できることから、この技術を「検索と置換」または「バックスペースキー」の機能に例える科学者もいます。また、遺伝子の発現量を増減させたり、DNA配列を挿入・削除したり、特定の遺伝子のスイッチをオンまたはオフにしたりする遺伝子編集技術もあります。遺伝子編集がさまざまな道具を備え、さまざまな用途に使うことができる「スイス・アーミーナイフ(万能ナイフ)」のようなものと言われることがあるのはこのためです。

研究室から実臨床へ

遺伝子編集技術をうまく使うことができれば、鎌状赤血球病やβサラセミアなどの最も深刻な遺伝性疾患の進行を効果的に抑制したり、回復させたりすることができるようになる日が来るかもしれません。将来的には、用途をさらに拡大し、他の難治性の病気にも適用できる可能性があります。

 

例えば、CRISPRは世界中の研究室で既に用いられ、改変細胞の作製や遺伝子の活性化/不活化により病気の発症機序の解明が試みられているなど、医学分野で多くの目的に使用することが可能です4。さらに、がんに対する新たな治療法の開発において、CRISPRは多くの腫瘍生物学的研究で使用される手法となっており、がんを引き起こすことが知られているDNAの変化を修正したり、効果的にがんと戦う力を免疫細胞に導入したりする研究が行われています5

 

機能不全のDNAを改変する技術は、人類の最も解決困難な問題と戦う新たな可能性を開くものです。現在は治療選択肢が限られている、あるいは治療選択肢がない病気を治療することにより、より良い世界を実現できる大きな可能性を秘めています。バイエルが次世代の治療薬開発を目指し、遺伝子編集技術に資源を投入しているのはこのためです。 

参考資料

1 American Society of Cell + Gene Therapy. Gene and Cell Therapy FAQs. https://asgct.org/education/more-resources/gene-and-cell-therapy-faqs. Viewed November 18, 2021.
2 National Institutes of Health. National Human Genome Research Institute. Genetic Code. https://www.genome.gov/genetics-glossary/Genetic-Code. Viewed November 18, 2021.
3 Ehrhart et al. (2021) in Scientific Data https://www.nature.com/articles/s41597-021-00905-y
4 Leopoldina. Genome Editing/Potential Applications. https://www.leopoldina.org/en/topics/genome-editing. Viewed November 18, 2021.
5 National Cancer Institute. How CRISPR Is Changing Cancer Research and Treatment. https://www.cancer.gov/news-events/cancer-currents-blog/2020/crispr-cancer-research-treatment. July 27, 2020. Viewed November 18, 2021.

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