2012年4月にバイエル薬品に入社し、医薬情報担当者(MR)としてキャリアをスタートした司城陽子さん。キャリアの転機を迎えた際に多くの方々からのアドバイスを受けて在職中に大学院で公衆衛生学を学び、これまで地域渉外や医療アクセス向上に関わるさまざまな職務を担当。直近では部門横断的に立ち上げた糖尿病・腎臓病の啓発チームのプロジェクトをリードしてきました。これらの取り組みが患者さんやご家族、日本社会にもたらす意義について聞きました。
アクセス&トレード本部 薬価・医療経済マネジャー
司城 陽子さん
―日本における腎臓病の現状や課題について聞かせてください。
慢性腎臓病(CKD)とは、腎障害を示す所見や腎機能低下が慢性的に続く状態です。CKDの発症・進展には、高血圧や糖尿病といった生活習慣病が深く関連しています。放置しておくと末期腎不全となり、人工透析や腎移植が必要となることから、いわゆる「隠れ腎臓病」のうちに早期発見、早期治療することが大切です。日本には約2,000万人(成人5人に1人)のCKD患者さんがいると推定されており1、人工透析を受けている患者さんは34万人を超えています2。
糖尿病の合併症や腎臓病の患者さんの早期診断/早期治療介入の手段は医学の進歩によって年々増加していますが、腎臓は悪化しても症状が現れにくいため、日本には診断されていない、未治療の「隠れ腎臓病」の患者さんが多く存在することが社会課題となっています。背景としては、早期診断のための検査の一つである尿アルブミン定量検査が日本で十分に浸透していないことが一因と考えられています。糖尿病・腎臓病の啓発チームにおける役割は、この「隠れ腎臓病」の患者さんを一人でも減らすことだと考えます。
―どのような想いで、腎臓病に関わる活動に取り組んでいますか?
昨年、私は人工透析を受けている方や慢性腎臓病の方に集まっていただいたワークショップに参加しました。人工透析の身体的・社会的辛さ、病気に対する受け止め方を直接聞くことで、初めて実情を理解することができました。参加者の方の中には、病気が進行する前に周囲の忠告に耳を傾けなかったことを悔やむ方や、医療従事者への感謝の気持ちを語る方もおられました。日々の生活の中で病気を抱える患者の皆さんの姿を再認識し、活動を通じて少しでも辛い思いをする人を減らし、豊かな人生を送るための一助となりたいと考えています。
―腎臓病の早期診断・治療の実現に向けて展開している活動内容について教えてください。
早期診断のための検査の一つである尿アルブミン定量検査の実施率を上げるための活動は、製薬会社単体で行うには限界があります。だからこそ、共通の目標を持つ他の医療関係者団体等との協力が、必要不可欠です。現在、私共のチームでは日本腎臓病協会と「尿アルブミン定量尿検査に係る費用対効果研究」を行っています。本研究は、日本腎臓病協会の厚生労働行政推進調査事業の腎疾患政策研究事業の一つでもあり、主な結果は共著者の先生方によって「第67回 日本腎臓学会学術総会 教育講演2 医療経済評価の考え方と手法」で2024年6月に発表されました。
これらの活動によって、尿アルブミン定量検査の実施の必要性が広く知られることで、未診断・未治療の腎臓病の患者さんを減らし、早期診断・早期治療介入によって日本における新規の透析導入患者さんを減らすことにつながると考えています。現在、本研究によって得られた知見を査読付き論文に投稿しています。今後、バイエルではこれらのエビデンスを活用して、尿アルブミン定量尿検査の普及に貢献していきたいと考えています。
―プロジェクトの意義や自身のやりがいについて聞かせてください。
バイエルにおける本プロジェクトチームの役割は、戦略的にヘルスケアシステムを改善することにあると思っています。このような環境づくりは、公共の社会課題を解決する重要な役割を果たしています。医療関係者団体や著名な専門家とのコミュニケーションを通じて、新たな発見や学びが常にあることも魅力の一つです。新しい知識を得る機会が豊富であることは、私自身の成長を実感する大きな要因となっています。
司城さんは、支えてくれたすべての人々への感謝の気持ちとプロジェクトの意義について熱く語りました。バイエルのミッションを実現するためには、社員一人ひとりの熱意が不可欠です。バイエルは、これからも患者さんの生活の質の向上に寄与する取り組みを推進し、医療の発展に貢献していきます。
1.日本腎臓学会「CKD診療ガイド2024」
2. 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)」
*取材した社員の所属・役職の表記は取材当時(2025年)のものです。
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