医薬品開発
次なるブレークスルーへの長き道のり
実験室で研究者たちが作り出す有効成分のうち、薬剤の候補になれるのは10,000種類中たったの1種類だけです。その上、創薬研究は費用と時間がかかるだけでなく、完全な行き止まりに至ることすらあります。薬剤が研究室から市場に出るまでにたどる長い旅路を見ていきましょう。
新型コロナウイルスに対する数種類のワクチンが開発され、世界の多くの国で使用されるようになった現在でも、新型コロナウイルス感染症の脅威はなくなっていません。この疾患に対して有効な治療薬はいまだ存在せず、また現在のワクチンは、今後登場する新たな変異種には効果を発揮しない可能性もあります。世界中の研究者が治療薬を求めて全力を尽くしていますが、その道のりは険しいと言わざるを得ません。
現在のプロセスや規制の下では、有望な有効成分が薬剤として市販されるまでの道は長く、しばしば曲がりくねっていたり、行き止まりに突き当たることもあります。そのため、医薬品開発には多大な時間と費用が必要となります。当初の構想が生まれてから、販売できるようになるまでに10年以上かかる場合もあります。開発の段階を一つずつ進むごとに、費用は増加します。最終段階での投資額が20億ユーロに達することも珍しくありません。
技術的リスクおよび経済的リスク
成功する保証はありません。開発に着手したすべての化合物について、有効性と安全性の要件を満たしながら、患者さんの生活の質の大きな改善を示せるわけではありません。最終段階のヒトを対象として行う臨床試験においても、平均40%もの確率で失敗するといわれています。医薬品開発には技術的にも経済的にもリスクがつきまとうものであり、その仕事に携わる者はつまずいても落胆していることが許されません。
バイエルでは、全世界で約7,400人の従業員が新たな有効成分を発見し、医薬品・治療法として世に送り出せるよう開発する業務に従事しています。患者さんの病気を治し、苦しみを減らすことがその目標です。約13年にわたりバイエルに勤務する内科医兼疫学者リチャード・ンクリキンカにとってもそれは原動力となっています。現在、ンクリキンカは、新薬の治験を担当する臨床開発部門で、心臓病・腎臓病チームのリーダーを務めています。
医療の世界におけるンクリキンカの出発点は、緊急救命室での研修医としての勤務経験でした。緊急救命室では、薬剤の重要性を目の当たりにする機会が毎日のようにありました。「急性の疾患で重度の発作や症状を呈する患者さんを日々担当していました。生命に関わる心臓の障害や、喘息の急性発作などです」とンクリキンカ。「ほとんどの場合に症状をすぐさま劇的に消失させることができる試験済み、検証済みの薬剤があったため、患者さんやご家族の助けとなれることに常に満足感を持っていました」。まもなく、ンクリキンカは、そうした薬剤を開発する側に回るのはどうだろうかと考えるようになりました。結果として、ンクリキンカは病院の仕事をやめて、研究職としてのキャリアに踏み出したのです。
医薬品開発は、希望と可能性に満ちた仕事です。我々の成功が、患者さんや医療全体にとっての進歩にもつながります。だからこそ、私は日々新鮮な気持ちで難しい課題に取り組むことができています。
リチャード・ンクリキンカ博士, MD
ドイツ・バイエル社医療用医薬品部門 バイスプレジデント 兼 循環器・腎臓領域臨床開発責任者
チームワークの大切さ
それ以来、ンクリキンカは世界中の人々の健康のために働いてきました。自分の選んだ道を後悔したことは一度もありません。「医薬品開発は、希望と可能性に満ちた仕事です。我々の成功が、患者さんや医療全体にとっての進歩にもつながります。だからこそ、私は日々新鮮な気持ちで難しい課題に取り組むことができています」。
医薬品開発に従事する者には共通する特徴があります。好奇心が強く、探求心があり、未解決の問題があればその根本原因を探らずにはいられず、チームワークの重要性を理解しています。「それぞれの領域における有数の人材が、世界各地のバイエルで専門家として働いています」とンクリキンカは述べています。「そうした人材と協力して問題を解決したり、意見を交換したりするのは非常に楽しいことです」。医薬品開発という事業には社内外での連携が不可欠です。外から見れば、製薬会社同士の競争は、熾烈なものにみえるかもしれません。「確かに一面ではその通りですが、基本的には良い意味での競合です。医薬品開発を一緒に発展させようという強い思いは、どの企業も同じです。切磋琢磨し合う同盟関係なのです」
失敗は新たな発見の源
新たな薬剤を求める旅が成功を収めたとき、研究者はこのうえなく報われます。つい先日、ンクリキンカのチームが開発に関与したある薬剤が規制当局から承認されました。「このプロセスを10年以内に終えられたことにとても満足しています」。この成果が得られるまでに、50ヵ国で実施した治験35試験に、8,000名の患者さんや健康なボランティアが参加しました。
治験を最後まで終え、規制当局への申請に持ち込むのはンクリキンカにとって今回が初めてではありません。製薬業界において成功の確率は低く、治験を開始した薬剤のうち最終的に当局から承認を取得して患者さんの手元に届くのは、平均して10剤中1剤と言われています。それを踏まえると、ンクリキンカの実績には目を見張るべきものがあります。バイエルでは、優秀な従業員であっても、キャリアを通して1剤も市場に出せないことが珍しくありません。とはいえ、それも意味のある大切な仕事です。なぜなら、失敗のたびに新しい洞察が得られ、以降の方向性を修正・変更していくことに役立つからです。医薬品開発に携わる者に強く求められるのは、諦めずに高い意欲を維持すること、すなわち挫折や失敗に向き合う力です。
研究・開発に年間30億ユーロを投入
バイエルは、毎年約30億ユーロを研究開発に投資し、該当領域に関する専門的な知識・経験を持ったパートナーと協働しています。未解決の問題に答えを見つけるという目的のためです。
協調して活動すること、新たな道を探ること、つまずいてもくじけないこと。バイエルでの医薬品開発は、この理念の下で行われています。この点に関するンクリキンカの言葉を最後に紹介します。「どんなに成功を収めても、医療の課題を抱えたままの人がどこかにいます。それこそが、私たちが歩みを止めない理由です」。
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