- アンケートによる患者視点を評価指標とした研究「伏見パイロットプログラム」
- 論文筆頭著者: 赤尾昌治・国立病院機構京都医療センター循環器内科 診療部長
大阪、2022年3月18日 ― 公益社団法人日本脳卒中協会(所在地:大阪市、理事長:峰松一夫、以下日本脳卒中協会)とバイエル薬品株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:フリオ・トリアナ、以下バイエル薬品)は、協同事業「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト(TASK-AFプロジェクト)」の一環として行われ、日本心臓財団・日本循環器学会共同発行誌「心臓」に掲載された「伏見パイロットプログラム」の研究論文が、日本心臓財団第10回「心臓」賞の研究部門最優秀賞を受賞しましたのでお知らせします。授賞式は、第86回日本循環器学会学術集会の2日目、3月12日に行われました。
【受賞論文】
心房細動患者の疾患・治療に対する理解度と、教育的介入による効果 ~TASK-AF伏見パイロットプログラム(心臓 2021;53(2):156-163)
赤尾昌治・国立病院機構京都医療センター循環器内科 診療部長
【受賞理由】
日本における心房細動患者の疾患および治療に対する理解度を調査し、背景や臨床転帰との関係、教育的介入による効果を検討したユニークな研究であり、学術的にも高い論文と評価されました。また、患者さんに教育することの難しさを示し、心房細動診療の質向上のためにも、このような知見を広く知ってもらう必要があるとして、最優秀賞が授与されました。
【赤尾昌治先生のコメント】
このたび、TASK-AF伏見パイロットプログラムの成果をまとめた論文が、日本心臓財団の第10回「心臓」賞の最優秀賞を受賞したとの連絡を受け、望外のことで驚きましたが、受賞をうれしく思っております。日頃から心房細動患者さんに、ご自身の疾患や治療について、正しく識っていただくことの困難さを実感しておりましたので、その実態を客観的に発信できたことは有意義であったと思います。いつも的確なご指導をいただいたTASK-AF実行委員の先生方、ご支援をいただいた日本脳卒中協会とバイエル薬品の皆さまのおかげと、心より感謝申し上げます。
【研究概要】
心房細動の脳梗塞予防には、抗凝固薬が極めて有効ですが、服用を継続できていないケースも多く、これには患者さんの疾患や治療に対する無理解が背景にある可能性があります。そこで本研究では、抗凝固薬を投与されている外来心房細動患者238例を対象に、心房細動患者の疾患および治療に対する理解度を評価し、その理解度と患者背景、臨床転帰(脳梗塞発症)との関係について検討しました。初回の理解度調査の後、小冊子、スライド、ビデオなどの視覚的教育資材を用いて心房細動患者に教育的介入を行い、疾患や治療の理解度が向上するかどうかを検討しました。
その結果、心房細動患者の疾患や治療に関する理解度は乏しく、教育的介入により理解度はわずかに向上したものの、その程度は軽度にとどまっており、理解度と臨床転帰には明らかな関連は見られませんでした。教育的介入が必要な患者さん、あるいはそれが効果的な患者さんをあらかじめ選別する工夫が必要と考えられました。
【今回の受賞について】
日本脳卒中協会理事長・峰松一夫
「脳卒中に関する正しい知識の普及および社会啓発による予防の推進」を目的とする本協会とバイエル薬品との協同事業として実施された本研究の結果は、「心房細動患者の疾患・治療理解度が低く、教育的介入の効果も限定的である」という衝撃的なものでした。予防啓発活動が容易でないことは、協会活動でも実感されてきました。だからこそ、2018年成立の脳卒中・循環器病対策基本法の理念の第一に「循環器病予防に関する国民啓発」が掲げられました。われわれは今後も、実効性のある啓発・教育的介入を追求し続けます。
バイエル薬品マーケットアクセス本部本部長・相徳泰子
患者さんに納得して治療を受けていただき治療ゴールを達成することは、製薬企業の使命でもあります。ただ、達成までの道のりにはさまざまな障壁があることも認識しています。特に、症状が改善するような治療でない場合、患者さんが実感できるベネフィットがないため、情報提供にも工夫が必要だと認識していました。赤尾先生が実施された教育介入の効果を科学的に測定するというアプローチを弊社が支援することを通して、多くの学びがありました。理想的な治療を実現するために今後も医療関係者や患者さんと連携し、さまざまな活動に取り組んでまいります。
心房細動について
心房細動は高齢者に多く見られる不整脈で、国内患者数は少なくとも約80万人と推定されています。心房細動がある人は、ない人に比べて約5倍も脳梗塞(血管が詰まるタイプの脳卒中)になりやすいといわれています。また心房細動による脳梗塞は死亡率、寝たきりなど介護が必要な重度の後遺症が残る可能性が高く、患者本人や介護する家族の負担、そして社会・経済的負担が非常に大きくなります。
心房細動による脳梗塞は、適切な治療(抗凝固療法)により約6割が予防できるとされており、心房細動を早期に発見し、適切な抗凝固療法を行うことが重要です。しかし心房細動は、症状や脳梗塞予防の必要性について十分に知られておらず、症状があっても心房細動を疑わなかったり、自覚症状のない場合や心房細動が発作性である場合は発見が困難だったりするため、心房細動の早期発見は容易ではありません。
日本脳卒中協会は、日本不整脈心電学会とともに、毎年3月9日を「脈の日」、3月9~15日を「心房細動週間」と定め、心房細動からの脳梗塞を予防するための啓発活動を展開しています。詳細は、こちらをご覧ください。