- 貧血治療の開始割合は低く、治療患者でも30%はヘモグロビン(Hb)低値が持続
- 保存期慢性腎臓病(CKD)患者における貧血治療の実態およびHb変動とイベントリスクの関連性を検討した初めての研究報告
- 医学誌Kidney360に論文掲載
大阪、2023年7月31日 ― バイエル薬品株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:フリオ・トリアナ、以下「バイエル薬品」)は、兵庫医科大学循環器・腎透析内科学の倉賀野隆裕教授らとともに、実臨床データを用いて日本人保存期CKD患者の貧血管理実態に関する観察研究を行い、日本の実臨床における貧血治療の実態やHb値変動と死亡やイベントリスクとの関連性を明らかにすることにより、Hb値の目標範囲(11–13g/dL)1,2内での安定維持が死亡や合併症の発症リスク低減に重要であることを示唆する調査結果を報告しましたのでお知らせします。本研究は、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)や低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬による腎性貧血治療を含む直近の治療実態を調査し、保存期CKD患者のHb値変動とイベントリスクの関係性を検討した初めての研究報告であり、医学誌Kidney360に2023年7月、論文が掲載されました。
新しい作用機序の腎性貧血治療薬としてHIF-PH阻害薬が世界に先駆けて日本で使われるようになり、CKD患者の貧血管理が注目されているものの、同薬を含む包括的な研究報告は限られています。また、Hb値の変動が保存期CKD患者に及ぼす影響についての情報も限られています。そこで、保存期CKD患者の貧血管理実態およびアンメット・メディカル・ニーズを明らかにするため、本研究を行うこととしました。
本研究は、電子カルテデータベースより一定条件(CKDステージ3a以上、Hb値11g/dL未満になったことがある等)のもと抽出された保存期CKD患者26,626人を対象としました(組み入れ期間2014年1月1日~2021年4月30日、平均追跡期間2.5年)。貧血に対する治療状況のほか、Hb値の変動(6パターンに分類)とイベント(全死亡、心血管イベント、透析導入、赤血球輸血)発生リスクとの関連性を評価しました。
その結果、保存期CKD患者の評価開始から12カ月時点で、CKDの主要合併症の一つである腎性貧血の治療が行われたのは37.1%にとどまり、治療にはESAが26.5%、経口鉄剤が16.8%、静注鉄剤が5.1%、HIF-PH阻害薬が0.2%に使用されていました(重複投与あり)。保存期CKD患者の平均Hb値は、ベースライン時点の9.9±1.2g/dLから12カ月時点で10.9±1.6g/dLに改善したものの、ESAまたはHIF-PH阻害薬による治療が行われた群においても30.1%はHb値が10g/dL未満で、低値が継続していました。また、Hb値変動とイベントリスクに関しては、全死亡、心血管イベント(心筋梗塞、不安定狭心症、脳卒中、心不全による入院)、透析導入、赤血球輸血の各リスクは、Hb値が目標範囲から一貫して低い群、目標範囲の下限値付近で低振幅に変動する群において、目標範囲に維持されている群と比べ有意に高くなりました(p<0.05)。透析導入、赤血球輸血の各リスクは、目標範囲を超えて高振幅に変動する群で、目標範囲に維持されている群と比べ有意に高くなりました(p<0.05)。
これらの結果より、実臨床における保存期CKD患者の貧血治療は最適ではなく課題があり、保存期CKD患者の死亡および合併症の発症リスクを減少させるには、Hb値を目標範囲内で安定的に管理することが重要と考えられました。