- UACRによるアルブミン尿の評価は慢性腎臓病(CKD)の診断・重症度判定に必須1
- 糖尿病合併有無にかかわらずUACRに高い費用対効果
- UACR算出に必要な尿アルブミン定量測定の保険適用拡大と普及に期待
慢性腎臓病の診断に尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)が高い費用対効果
東京、大阪、2025年1月9日 ― NPO法人日本腎臓病協会(所在地:東京都文京区、理事長:柏原直樹、以下「日本腎臓病協会」)とバイエル薬品株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:イン・チェン、以下「バイエル薬品」)は、CKDの診断において、腎障害の指標であるUACRは糖尿病の合併有無にかかわらず、ほかの指標と比べ費用対効果が高いことが共同研究で明らかになりましたのでお知らせします。
CKDの診断は、腎障害の指標、糸球体濾過量(GFR)低下のいずれか、または両方が3カ月を越えて持続することが要件となっています1。腎障害の指標としては特に、尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)が0.15g/gCr以上の蛋白尿、またはUACRが30mg/gCr以上のアルブミン尿の存在が重要です1。また、CKDの重症度判定においても、蛋白尿もしくはアルブミン尿の評価が必須であり、評価法としては尿アルブミン定量測定がゴールドスタンダードとされています1。
日本の保険診療では、UACRを算出するために必要な尿アルブミン定量測定の保険請求が、糖尿病または糖尿病性早期腎症であり微量アルブミン尿を疑う患者さん(糖尿病性腎症第1期または第2期)に対して行った場合に、3カ月に1回に限られています。一方、諸外国ではCKD全般で尿アルブミン定量測定が行われています。CKDの定義や重症度分類も、国際的には尿アルブミン定量測定を基に行われますが、日本では尿蛋白排泄量で代用せざるを得ない状況となっており、厚生労働省腎疾患政策研究事業「腎疾患対策検討会報告書に基づく対策の進捗管理および新たな対策の提言に資するエビデンス構築」研究班(代表 柏原直樹)が、「尿中アルブミン測定の診療報酬化」に取り組むこととなりました。
こうした実態を踏まえ日本腎臓病協会とバイエル薬品は、腎臓病対策の普及啓発に関する包括連携協定の一環として、CKDの診断にUACRがより適切に使用できるようにするため、2型糖尿病患者、非糖尿病患者それぞれを対象に、UACRの医療経済評価に関する本研究を行いました。各患者集団において、医療経済モデルを用いてUACRの費用対効果をUPCRおよび尿検査をしない場合と比較検討しました。
■2型糖尿病患者におけるUACRの医療経済評価2
2型糖尿病患者のUACRを定期的にチェックし、CKD患者の早期診断・治療介入を行うことは、尿検査をしない場合と比較して、費用対効果が高いことが示されました。費用対効果の指標である増分費用効果比(ICER)は2,652,693円/質調整生存年(QALY)でした。
■非糖尿病患者におけるUACRの医療経済評価3
非糖尿病患者のUACRを定期的にチェックし、CKD患者の早期診断・治療介入を行うことは、尿検査をしない場合またはUPCRのチェックと比較して、費用対効果が高いことが示されました。ICERは1,966,433円/QALYでした。
ICERは、医薬品や検査などの新たな医療技術により追加でかかる費用が、追加で得られる効果に見合っているかどうかを評価する指標です。費用の増分を分子、治療効果の向上量を分母として計算し、ICERの値が小さいほど費用対効果が高いとみなされます。日本の公的医療保険制度では、保険償還価格を設定する際のICER標準基準額が500万円/QALY以下に設定されていることから、本研究の結果は日本の医療環境下において費用対効果が高いと判断できます。本研究において、治療効果の指標にはQOL値の一つの指標であるQALYを使用しました。
本研究について、日本腎臓病協会理事長の柏原直樹は次のように述べています。「生活習慣の変化、高齢化を背景に腎臓病が増加しています。中でもCKDは生活習慣病であり、予防可能です。また早期発見、治療により予後は大きく変わります。日本では、糖尿病において尿アルブミン定量測定が保険適用されていますが、現在まだ保険適用されていない非糖尿病患者さんへの費用対効果もよいことが本研究により明らかになりました。腎臓病の克服のために、日本も諸外国と同じように、糖尿病の合併有無にかかわらず、尿アルブミン定量測定が保険適用されることが重要です」
【CKDについて】
CKDとは腎障害を示す所見や腎機能低下が慢性的に続く状態です。CKDの発症・進展には、高血圧や糖尿病といった生活習慣病が深く関連しています。放置したままにしておくと末期腎不全となり、人工透析や腎移植が必要となることから、いわゆる「隠れ腎臓病」のうちに早期発見、早期治療することが大切です。日本には約2,000万人(成人5人に1人)のCKD患者がいると推定されており4、人工透析を受けている患者さんは34万人を超えています5。新規透析導入患者数については、2028年までに年間35,000人以下に減少させる目標6があるものの、2022年は39,000人を超え5、目標達成に至っていません。新規透析導入患者の原因疾患は糖尿病性腎症が最多(38.7%)ですが、主に高血圧や加齢により発症する腎硬化症の割合(18.7%)が持続的に増加しており、慢性糸球体腎炎(14.0%)の割合も依然として高い5ことから、新規透析導入患者数を減少させるために、糖尿病の有無を問わず対策を講じることが急務となっています。
References:
1. 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」
2. Asahi K et al. J Diabetes Investig. 2025 Jan;16(1):108-119. doi: 10.1111/jdi.14293. Epub 2024 Nov 22.
3. Konta T et al. Clin Exp Nephrol. 2024 Dec 16. doi: 10.1007/s10157-024-02600-9. Online ahead of print.
4. 日本腎臓学会「CKD診療ガイド2024」
5. 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)」
6. 厚生労働省「腎疾患対策検討会報告書~腎疾患対策の更なる推進を目指して~2018年7月」
NPO法人日本腎臓病協会について
日本腎臓病協会は、医療者、市民、関連企業、行政等が連携し腎臓病を克服するために、立ち上げた組織です。腎臓病の普及啓発、診療連携体制の構築、腎臓病療養指導士制度の運営、 患者会との連携、アカデミアと関連企業・行政等が連携するプラットフォームである 「Kidney Research Initiative-Japan(KRI-J)」の運営などの事業を積極的に展開しています。 腎臓分野において、日本全国どこにいても、良質な医療の恩恵を享受できる環境の実現に尽力しています。日本腎臓病協会についてはhttps://j-ka.or.jp/をご覧ください。
循環器疾患および腎疾患におけるバイエルのコミットメントについて
バイエルは、循環器疾患領域における革新的リーダーとして、革新的治療のポートフォリオを充実させることで、「Science for a better life」をお届けできるよう長年にわたり取り組んでいます。心臓と腎臓は健康や疾患において密接に関わっており、バイエルはアンメットメディカルニーズが高い循環器疾患と腎疾患に対する新しい治療アプローチについて、幅広い領域で取り組んでいます。バイエルの循環器フランチャイズには多くの製品があり、前臨床および臨床開発のさまざまな段階にあるその他いくつかの化合物があります。これらの製品・化合物は、循環器疾患の治療法に影響を与える可能性のある標的やシグナル伝達経路を優先的に開発するバイエルのアプローチを反映しています。
バイエルについて
バイエルは、ヘルスケアと食糧関連のライフサイエンス領域を中核事業とするグローバル企業です。私たちのミッション「Health for all, Hunger for none(すべての人に健康を、飢餓をゼロに)」のもと、バイエルの製品とサービスを通じて、世界人口の増加と高齢化によって生じる重要課題克服への取り組みをサポートすることで、人々の生活と地球の繁栄に貢献しています。バイエルは、持続可能な発展を推進し、事業を通じて良い影響を創出することに尽力しています。同時に、収益力を高め、イノベーションと成長を通して企業価値を創造することも目指しています。バイエルブランドは、世界各国で信用と信頼性および品質の証となっています。グループ全体の売上高は476億ユーロ、従業員数は約100,000名(2023年)。特別項目計上前の研究開発費は58億ユーロです。詳細はwww.bayer.comをご参照ください。
バイエル薬品株式会社について
医療用医薬品、コンシューマーヘルスの各事業を通じて、日本の患者さんのための治療に変革をもたらす持続可能な取り組みを推進しています。医療用医薬品部門では、循環器・腎・代謝領域、オンコロジー領域、眼科領域、婦人科領域、血液領域、画像診断領域に、コンシューマーヘルス部門では、赤ちゃんの「人生最初の1000日」に適切な栄養を届けるため、女性の妊娠準備と妊娠期間を支援するサプリメントなどに注力しています。詳細はwww.pharma.bayer.jp, Facebook, YouTubeをご参照ください。
NPO法人日本腎臓病協会、バイエル薬品株式会社
2025年1月9日、東京、大阪
将来予想に関する記述 (Forward-Looking Statements)
このニュースリリースには、バイエルの経営陣による現在の試算および予測に基づく将来予想に関する記述 (Forward-Looking Statements) が含まれている場合があります。さまざまな既知・未知のリスク、不確実性、その他の要因により、将来の実績、財務状況、企業の動向または業績と、当文書における予測との間に大きな相違が生じることがあります。これらの要因には、当社のWebサイト上(www.bayer.com)に公開されている報告書に説明されているものが含まれます。当社は、これらの将来予想に関する記述を更新し、将来の出来事または情勢に適合させる責任を負いません。