月経痛から始める婦人科とのつき合い方

つらい月経痛はもしかしたら、「子宮内膜症」のせいで起きているのかも?
この病気の専門家で、東京大学医学部付属病院でこれまで数千人以上の患者を診てきた甲賀かをり先生に子宮内膜症を発見するためのヒント、婦人科の受診の仕方などをお聞きしました。

生理痛は、あって当たり前じゃないんですか?

「多くの女性が経験する月経痛(生理痛)ですが、なかには痛みのせいで仕事や学校を休んでしまったり、鎮痛剤が手放せなかったりする人も大勢います。このように、日常生活に支障をきたすほどの月経痛は「月経困難症」と呼ばれ、治療の対象となると考えます。日本では800万人以上もの方が該当すると考えられています(※1)

 

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これほど多くの女性が苦しんでいるのに、月経痛で婦人科を受診する人は残念なことに、わずか10%といわれています。「生理痛は体質的なもの。あって当然」という誤った考えが広まっているせいでしょうか。あるいは月経中はつらくて「明日は病院に行こう」と思っても、痛みが過ぎ去れば「来月でいいや」と先延ばしにしているのかもしれません。もちろん忙しくて病院に行く時間が取れない人もいるでしょう。

 

しかし、婦人科医としてみなさんに強くお伝えしたいのは、月経痛はけっして放置してはいけないということです。なぜなら、痛みは生活の質(QOL)や仕事の質を低下させるだけでなく、痛みの裏に女性のライフプランや将来の健康をおびやかす女性特有の病気が隠れている可能性があるからです。

生理痛があると、どんな病気のリスクがあるのですか?

月経困難症で医療機関を受診した人には、次のような女性特有の病気が見つかるケースがあります。20代、30代に多くに発見されるのが「子宮内膜症」です(※2)。近年患者数が増え続けている病気で、月経困難症を持つ女性は子宮内膜症のリスクが2.6倍高まると報告されています(※3)

 

子宮内膜症とは、本来なら子宮内にある「子宮内膜」が子宮以外の場所、例えば卵巣や卵管、腸などで、増殖する病気です。そのままにしておくと炎症が起きたり、まわりの臓器に癒着して痛みが起きたりします。つまり、子宮内膜症が原因で月経困難症になっている可能性があるのです。

 

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子宮内膜症の問題は、月経困難症だけではありません。実は、不妊に悩む女性のうち、30〜50%に子宮内膜症があると考えられています。卵巣に子宮内膜症ができれば卵の質が下がりますし、卵管に癒着がおきれば、卵子が子宮にたどり着かなくなる。その結果、妊娠しにくくなってしまいます。

 

もうひとつの大きな問題は卵巣がんです。子宮内膜症の場合、この病気がない人に比べて卵巣がんのリスクが9倍近く高くなるという報告があります(※4)。子宮内膜症に気づかないでいることが、将来の卵巣がんへの進行につながる可能性もあるのです。

 

次の項目のうち、あてはまるものが1つでもあれば、子宮内膜症の可能性があります。怖がらずにぜひ一度、婦人科を受診してください。

 

子宮内膜症チェックリスト

  • つらい月経痛がある(鎮痛剤が手放せない/学校や会社を休んでしまう/寝込んでしまう、など)。
  • 月経のときに使う鎮痛剤の量が増えてきた。
  • セックスのとき、奥の方が痛い(性交時痛)。
  • 排便するときにおなかが痛い(排便時痛)。
  • 月経のとき以外に下腹部が痛むことがある。
  • なかなか妊娠しない。

出典:

日本子宮内膜症啓発会議JECIE「子宮内膜症 情報ステーション」

婦人科をどうやって利用すればよいですか?

「月経痛くらいで病院に行っていいの?」などと二の足を踏まず、気になることがあればすぐに受診してください。月経痛がある場合、3回続けてつらかったら受診することをお勧めします。受診は月経中でも月経中じゃなくてもどちらでもかまいません。

 

なかには「せっかく病院に行って、何の問題もないと申し訳ない」と恐縮する人がいますが、気にする必要はありません。もし何の問題がなかったとしても、「その時点では問題なし」という記録を残すのは大切なこと。例えばもし翌年に婦人科で病気が見つかったとしても、「この病変は1年間でこれだけ成長した」とわかるので、治療に役立てられます。

 

子宮内膜症の疑いがあれば、多くの場合は超音波(エコー)検査をします。超音波検査には、おなかの上から診るもの(経腹エコー検査)、腟から見るもの(経腟超音波検査)、腸から診るもの(経直腸超音波検査)があります。不安かもしれませんが、どの検査を行うにしても、まずは相談から。検査の意味をきちんと説明したうえで「病気かどうか、はっきりさせましょう」とお話しすると、10代の患者さんでも安心して検査を受けてくれる方がほとんどです。

 

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子宮内膜症については、この10年ほどで薬物治療の選択肢が大幅に増えました。手術にしても、できるだけ卵巣や子宮へのダメージを少なくする方法があります。そうした選択肢を活用するには、とにかく一刻も早く病気を見つけること。早期発見できれば、それだけ体への負担が少なく、妊娠・出産といったライフプランを望みどおりに実現できる可能性が高まります。婦人科はけっして怖いところではありません。まだ一度も受診したことがないという方は、ぜひ一度足を運んでみてください。

 
  1. 日本子宮内膜症啓発会議「Fact Note P3 図4 月経困難症患者の現状」
  2. 平成12年度厚生科学研究報告書
  3. Treloar SA et al. Am J Obstet Gynecol 2010
  4. Kobayashi H et al. Int J Gynecol Cander 2007
 

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